ポ・ト・フ Pot au feu
このブログ欄に投稿をするのは本当に久しぶりになってしまいました。
でも今日は皆さんにお知らせしたいことがあっての投稿です。
それはショートシネマ YouTubeアップのお知らせです。
2024年3月に映画館で観た「ポ・ト・フ」。19世紀末のフランスを舞台に、稀代の美食家とその台所を長年あずかる天才女性料理人の日々を綴る映画です。もちろんストーリーはあるのですが、その美しい映像とフランスの食材の豊かさを心ゆくまで味わえる映画でした。
そんな興奮状態で映画館を出て、夫が「ポ・ト・フを食べよう」と言い出したのです。そして一緒に映画を見ていた料理カメラマンの尾田さんは「映画みたいに撮影しよう!」。その勢いでこの動画ができました。私はといえば「モワル(骨髄) が手に入るかな~」という思い。
ポ・ト・フはフランス人にとってソウルフードともいえる一品。決して気取らない家庭の味です。映画の中では某国の皇太子に招待された豪華な料理の返礼としてポ・ト・フを選んだという設定。ということはその究極のポ・ト・フはフランス料理の神髄であり、シンプルさへのオマージュともいえる一皿だと思いました。
日本では時として西洋おでんとも言われ、スープと共に器に盛られて出されますが、本来はスープは食事のスタートとして出され、その後のメインとして煮た肉、そして一緒に入れた野菜は付け合わせとして大きな皿に盛られます。家庭料理ですからその大皿から取り分けていただく、そんな家庭の暖かさを感じる料理なのです。この料理には牛の骨も加え、その中にあるモワル(骨髄)も頂きます。少しで十分なモワルは、その日のメインゲストか長老者へ。パンにのせて塩、こしょうをふって食べます。映画のエスプリに基づくならこのモワルは絶対に外せません。その日以来私の頭を離れなかったモワル、その悩みは同じ年の5月に訪ねた滋賀県のお肉屋さんで解消されました。熟成肉で有名な「サカエヤ」の店のショーケースに牛骨がきれいにカットされて並んでいるではありませんか。あとはひたすらポ・ト・フにぴったりの寒い季節になるまで待つだけです。そしてその日が。。。
フランスのように肉と野菜を一緒に鍋に入れると、どうしても日本の水や野菜の質の違いから肉が柔らかくなる頃には野菜は煮溶け始めます。私のいつもの方法は、まず香味野菜とブッケガルニと一緒に肉がほぼ柔らかくなるまで煮ます。一晩おいて上に固まった脂を取り除き、野菜を固い順に加えて煮ていきます。牛骨は茹でこぼしてから15分ほど煮ます。すると中のモワル(骨髄)はとろりとおいしそうです。一緒に煮る野菜に決まりはないけれど一般的に入れるものはにんじん、玉ねぎ、ポロ葱、根セロリ、蕪、じゃがいもなど。ポロ葱は北海道の、根セロリは長野のものを使いました。本来ならカブですが、日本の蕪は柔らか過ぎるので大根で代用。ポロ葱や玉ねぎに楊枝を刺したのは煮ている間にバラバラになるのを防ぐためです。ポロ葱はフランスだともっと長く切ってタコ糸で縛ってから煮るのですが、長いとちょっと食べにくいしで最近気にいっている今回のスタイルにしました。香味野菜として使った玉ねぎは鉄のフライパンで空焼きにして焦がします。このようにすると煮汁がコンソメのような茶色になります。普通は丁子を刺したそのままの玉ねぎを加えることが多いのですが、今回はちょっと手を加えてみました。スープがちょうどよい塩加減だと肉や野菜の塩味が薄過ぎます。そこで食べる時に、塩、こしょう、マスタードなどを付けていただくわけです。
もし、ポ・ト・フと一緒に赤ワインを飲んでいたら、私が最後にやったペイザン(田舎の人)がやるように、赤ワインのブイヨン割りを試してみてください。これもほっこりと来ると思います。
構想から8ヶ月、みんなの思いがお腹と心を満たしてくれる瞬間となりました。言い出しっぺの夫はみんなにがんばれ~っていう係。私の初めての著書「スープと煮込み」以来、長〜いお付き合いになるカメラマンの尾田さんは、機材や照明を持ち込み、食べている時も動画を回し、編集とさらにサムネイル製作まで八面六臂の活躍です。本当に感謝しかありません。サムネイルタイトルにあるように見て、作って、撮って、食べた素敵な大人の休日になりました。
ポ・ト・フは決して難しい料理ではありません。皆さんにも作ってもらえるきっかけになれば嬉しいです。
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